大動脈瘤とは
大動脈は、心臓から拍出された血液が最初に通る太い血管です。枝分かれしながら全身の重要臓器に酸素や栄養を運びます。大動脈瘤とは、大動脈の血管壁の一部がコブ状に膨れ上がった状態です。
大動脈瘤は、胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤に分けられます。
大動脈瘤は治療せず放置していると破裂し、高い確率で死亡する病気です。
大動脈瘤の原因
大動脈瘤は大動脈の壁の一部が弱くなり、拡大してできると考えられています。高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙といった生活習慣病による動脈硬化や、炎症や遺伝などのさまざまな要因が関係すると考えられています。
形状によって、全体的にふくらんだ紡錘状瘤と部分的にふくらんだ嚢状瘤に分けられますが、患者様によって形は様々です。
大動脈瘤の症状
大動脈瘤は何も症状がないことが殆どです。健診や、別の理由でとったエコーやCTで偶然発見されることがあります。
大動脈瘤自体が大きくなり、周囲の組織を圧迫するようになって初めて症状が出てきます。
①胸部大動脈瘤
気管支や周囲の神経(反回神経)が圧迫されると、咳や血痰、息苦しさなどが現れたり、声が枯れたり誤嚥しやすくなります。
②腹部大動脈瘤
お腹を触ったときに拍動する「こぶ」を触れたり、血流異常から足先が妙に冷えるようになったりします。
大動脈瘤が大きくなって破裂すると、激しい胸痛や背部痛、腹痛が起こり、ショック状態になります。急速に循環不全となるため、緊急手術でしか救命できません。
もし大動脈瘤と診断された場合には、CT検査等を含めて専門医による定期的なフォローアップが大切です。
大動脈瘤の検査と診断
①胸部レントゲン検査
左右の肺に挟まれた縦郭全体を確認します。大動脈が拡大したり蛇行していないか、石灰化していないか等を確認します。胸部レントゲン検査だけで診断することはできませんが、スクリーニングや鑑別診断に有用です。
②超音波検査(エコー検査)
超音波を使って心臓やお腹の状態を探ります。心臓の機能を評価したり、心臓からすぐ出た上行大動脈の一部や、腹部大動脈を観察します。被ばくや造影剤による副作用がないため、体への負担が少ない検査と言えます。
③血液検査
症状のない大動脈瘤では血液検査をしても特異的な異常は認めないのですが、相当大きいものや破裂寸前では、炎症反応が上昇したり、凝固能異常がみられることがあります。
背景には動脈硬化が潜んでいるケースが多いので、糖尿病や脂質異常症、腎臓疾患などの評価にも血液検査は重要です。
④造影CT検査
必要に応じて造影剤を併用し、CTをとることで、大動脈瘤の有無を診断します。大動脈瘤の最大径や形状、他の血管や組織との位置関係を評価します。
⑤MRI検査
MRI(磁気共鳴画像撮影)とは、電磁気の力を利用して体の内部を撮影する装置です。大動脈瘤の大きさや動脈硬化の詳細がわかります。多くの場合(造影)CT検査が第1選択となりますが、造影剤を使いにくい場合や被ばくを避けたい場合にはMRI検査を行います。
大動脈瘤の治療
①ステントグラフト内挿術
ステントグラフトとは、人工血管に金属のコイルが巻き付いた器具のことです。足の動脈から大動脈瘤の内側に持ち込み拡張することで、大動脈瘤を内側から塞ぐ治療です。
胸やお腹を切らない治療なので、手術時間が短く傷も小さく済みます。出血や術後の痛みも少ない治療です。
一方で、ステントグラフト自体が変形したり、位置がずれてしまう懸念があります。また大動脈瘤が再び拡大したり、ステントグラフトの端に新しく動脈瘤ができてしまう場合もあります。
②人工血管置換術
胸やお腹を開き、大動脈瘤を人工血管に置き換える手術です。必要に応じて低体温とし人工心肺装置を使って手術を行います。
人工血管は、化学繊維を網目状に織ったチューブ状のものです。耐久性は数十年以上あり、殆ど入れ替えの必要はありません。しかし感染に対して弱いため注意が必要です。例えば歯科治療の際などには、人工血管があることを伝え、抗生剤の処方を受けてください。人工血管に感染した場合、治療は難しく、更に人工血管を入れ替える手術が必要になることもあります。
大動脈瘤と診断されたら
高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙など生活習慣病による動脈硬化が大きな原因ですので、こうしたリスクを避けることが重要です。
- 毎日血圧を測定する。
- 暴飲暴食や深酒をしない。
- 禁煙する。
- 息むような便秘に気を付ける。
- 十分な睡眠と休養をとりストレスを避ける。イライラしない。
- 入浴などで寒暖差に気を付ける。
- 動悸や息切れが無い範囲で、ウォーキング等の軽い運動を心掛ける。
大動脈瘤は一度破裂すると命に係わります。症状がない場合は検査や治療を受けることに悩むことがあるかもしれませんが、是非医師と相談してフォローを受けてください。