僧帽弁膜症とは

心臓は血液を全身に送り出しますが、血液が逆流しないように内部に4つの逆流防止弁が付いています。このうち、左心房と左心室との間にある弁を僧帽弁と呼びます。僧帽弁膜症はこの弁の働きに異常が起こる症状です。僧帽弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症に分けられます。

僧帽弁膜症のイメージ

僧帽弁狭窄症

僧帽弁が石灰化により固く狭くなり、血流が妨げられる病気です。最初は症状が現れにくく健康診断や他の病気で受診した際に偶然見つかることがあります。

幼少期にリウマチ熱に罹患した後、およそ15~20年の無症状の時期を経て、45~65歳で発症することが多いです。最近では加齢による変化も増えています。弁やその周囲の組織が徐々に変性して狭窄が進み、心不全を起こします。

僧帽弁狭窄症のイメージ

僧帽弁狭窄症の症状

僧帽弁狭窄症の症状のイメージ

僧帽弁狭窄症は初期には症状はほとんどみられませんが、健康診断や他の病気で受診した際に偶然見つかることがあります。

進行すると、息切れや疲れやすさなどの症状が現れてきて、呼吸が楽になるのは、椅子やソファに寄りかかって上体を支えているときのみになり、苦しくて寝ることが出来なくなります。また喀血のように、ピンク色の痰が出て激しく咳き込んだりします。

僧帽弁狭窄症の検査と診断

①問診

問診では、動悸、呼吸困難や浮腫みなどの症状がいつからあるか、小児期に強い関節痛を伴う発熱や発疹が出たことはなかったか(リウマチ熱の症状)、他に持病はないか、といったことを尋ね、状況を把握します。聴診で心雑音を確認します。

②胸部レントゲン検査

心不全の存在や重症度診断に重要な検査です。レントゲンでは心臓の拡大、肺うっ血、胸水の有無などを確認します。以前に撮られた画像と比較することも重要です。

③心電図

心電図は心臓の電気的な活動を波形として記録する検査です。心筋梗塞や心肥大の有無、心房細動などの不整脈の有無を確認します。

④心エコー検査

エコー検査のイメージ

超音波を使って心臓の状態を探ります。僧帽弁膜症では心エコー検査は最も重要な検査です。心機能の評価や、弁の状態の評価、重症度評価などを行います。より詳細に検査する場合は、胃カメラのように探触子を飲み込んでもらい、食道の内部から心臓を評価する、経食道エコー検査を行います。

⑤カテーテル検査

カテーテルという細長い管を首元、腕、足の付け根の血管に通して心臓まで挿入し、心臓の中で直接圧力を測定したり、造影剤を注入して血管を造影したりする検査です。肺動脈内や心臓内の圧力を直接測定できます。また、狭心症や心筋梗塞など合併していないかを評価します。

僧帽弁狭窄症の治療

  1. 症状が軽度の場合や、手術が難しいような場合には薬による心不全治療を行います。また僧帽弁狭窄症は高率に心房細動を合併するため、血栓を予防する薬(ワルファリン)が必須になります。
  2. 経皮的経管的僧帽弁交連裂開術(PTMC)は、カテーテルからバルーンを挿入し、狭くなった僧帽弁を広げる治療です。心臓内に血栓がなく、僧帽弁閉鎖不全症が重度でないことが前提で、弁の硬さなどを総合的に判断して決定されます。治療には施設や術者の熟練度が大切になります。心不全の状態や年齢などによりますが、5年生存率は93%と良好です。
  3. 直視的下僧帽弁交連切開術(OMC)は、硬くなった弁の隙間にメスで切り込みを入れ、弁の動きを改善させ、血流を良くする外科手術です。術後10年の生存率は90%以上と良好です。
  4. 僧帽弁置換術(MVR)は、自己の僧帽弁を切除し人工弁に置換する手術です。進行して弁が重度に硬くなってしまった場合や左房内に血栓できてしまった場合、また僧帽弁逆流も合併している場合などに行います。手術後は、人工弁の耐久性、人工弁に関連した合併症、肺高血圧や心房細動などの影響など様々な要素はありますが、10年生存率は約93%と報告されています。

人工弁について

人工弁のイメージ
  • 機械弁は構造劣化がないため、10年経っても再手術を回避できる確率は95%、30年の成績でも85%と良好です。
  • 生体弁では抗凝固薬を回避できるメリットがありますが、弁自体の劣化が問題となり、15年を過ぎると再手術回避率は75%以下です。65歳以下の比較的若い方では、50%以上の方に再手術が必要になります。弁置換術の治療に際しては患者背景を考慮し、人工弁の耐久性と抗凝固療法や感染症等のリスク・ベネフィットをよく吟味して方針を決めていきます。