失神

失神のイメージ

失神とは、一過性の意識消失の結果、姿勢が保持できなくなり、かつ自然に、また完全に意識の回復がみられること、と定義されます。失神は幅広い年代で起こりえますが、とくに14~25歳の若年者と、70歳以上の高齢者に多く発生します。若年者では長時間の起立や緊張によって生じることが多く、失神する前に吐気、冷汗などの症状がみられる場合もあります。高齢者では心臓病による失神や、急に起き上がったりしたときに血圧が低下して起こる失神が多くなります。複数の原因が組み合わさって発生することもあります。

失神は、とくに治療の必要がない場合もありますが、心臓疾患や不整脈が原因で起こる心原性失神は、適切な診断と治療が必要です。また、失神による転倒や事故で重い後遺症が残る可能性もあります。失神を繰り返さないうちに早めに医療機関へ受診してください。

受診したほうが良い失神

  • 胸痛、動悸、息切れなどの心臓の症状がある
  • 運動中に失神した
  • 親族に原因不明の突然死の方がいる
  • 親族に失神を繰り返した方がいる
  • すでに何回か失神している
  • 失神により重大な事故や外傷を起こした

といった場合には、医療機関へ受診し精密検査を受けてください。
そのほかのチェックポイントとしては

  • 現在罹っている病気の有無
  • 飲んでいる薬やサプリメントの種類
  • アルコール摂取の有無
  • どのような状況で失神したか
  • 失神直前の記憶はどうか

などは記録しておくほうがよいでしょう。

失神の原因

反射性失神(神経調節性失神)

血管迷走神経性失神

情動失神、姿勢による失神(長時間の立位や座位)、運動直後の失神

状況失神

咳嗽失神、嚥下性失神、排便失神、排尿失神

頸動脈洞失神

頸動脈洞への刺激による失神(首の運動、腫瘤などによる圧迫、など)

起立性低血圧

急に起き上がったりしたときに血圧が低下して起こる失神です。仰向けの状態から立位になると、約500~1000mlの血液が下肢や腹部内蔵系へ移動し、心臓への循環血液量が約30%低下します。この変化に対して体が対応できないことで、脳に行く血流が低下して失神が起こります。起立性低血圧の原因としては以下のような自律神経に関わる病気が多くあげられます。

  • 自律神経失調症
  • 糖尿病
  • 多系統萎縮症
  • アミロイドーシス
  • 薬剤性(降圧薬や抗うつ薬)

心原性失神

不整脈や心筋症などの心臓疾患によって起こる失神です。心原性失神は生命予後が悪いことが知られており、診断と治療は非常に大切です。

不整脈による失神

1)徐脈性不整脈

失神の原因となる徐脈性不整脈には洞不全症候群と房室ブロックがあげられます。

  • 洞不全症候群
    心臓の拍動を作り出す洞結節や周辺部の機能が落ち、脈が出なくなって失神してしまう病気です。

    洞不全症候群はこちら
  • 房室ブロック
    心拍の電気信号を伝える房室結節の働きが悪くなり、電気信号が心室まで十分に伝わらず失神してしまう病気です。

    房室ブロックはこちら

2)頻脈性不整脈

頻脈により心拍出量が低下ないし消失することが原因で失神を起こします。

  • 心房細動
    心臓が「細かく」不規則に拍動する不整脈です。時に血栓塞栓症の原因となります。

    心房細動はこちら
  • 発作性上室頻拍
    脈が異常な伝導路を通ることでループとなり、そこで脈の信号がグルグルと回って止まらなくなる不整脈です。突然、規則正しい頻脈(100~200/分)が出現します。

    発作性上室頻拍はこちら
  • 心室頻拍・心室細動
    心臓の働きの中心である心室で異常な電気信号が生じ、心臓がけいれん状態になってしまう不整脈です。けいれん状態になった心臓は収縮できなくなり、いずれ止まってしまいます。心臓突然死を起こす危険な不整脈です。

    心室頻拍・心室細動はこちら

虚血性心疾患による失神

心筋のポンプ失調や不整脈によるものと、反射によるものがあります。心筋梗塞を含む急性冠症候群では、胸痛は認めず失神発作やその前兆で受診される方もいます。詳しく知りたい方は心筋梗塞をご覧ください。

心筋梗塞はこちら

心筋症による失神

肥大型心筋症や拡張型心筋症における失神は、突然死のリスクファクターとして重要です。不整脈による失神や反射性失神などが原因としてあげられますが、とくに心室頻拍は重要で、植込み型除細動器(ICD)を考慮する必要があります。
詳しく知りたい方は心筋症をご覧ください。

心筋症はこちら

心臓弁膜症

大動脈弁狭窄症や僧帽弁狭窄症では失神発作が起こりやすくなります。大動脈弁狭窄症では、主に運動中に末梢血管抵抗が下がり、しかし大動脈弁狭窄症があるために心拍出はできず、血圧が下がり失神が生じると考えられます。
詳しく知りたい方は大動脈弁狭窄症をご覧ください。

大動脈弁狭窄症はこちら

その他

肺血栓塞栓症や肺高血圧症、大動脈解離、などに伴う失神発作などがあります。

失神の検査

胸部レントゲン検査

心不全の存在や重症度診断に重要な検査です。レントゲンでは心臓の拡大、肺うっ血、胸水の有無などを確認します。

心電図検査

心臓の電気的な活動を記録する検査です。心筋梗塞や不整脈の診断に有用で、心臓の病気が隠れていないかを確認します。しかし受診した時には消失していることもあり、診断できないこともあります。その場合は、発作時の状態を調べるために、ホルター心電図検査を行います。

ホルター心電図検査

電極を胸につけ、磁気カード程度の携帯型心電計とつなぎ、24時間心電図を記録する検査です。長時間心電図を記録して発作が起きたときやその前後の状態を記録できる検査です。

心臓超音波検査(心エコー検査)

超音波を使って心臓の状態を探る検査です。心臓の大きさ、心筋の動き、弁の機能、心内血栓などを評価します。

血液検査

血液検査では、血中蛋白や、肝機能、腎機能、甲状腺機能、電解質濃度などを測定します。心不全のマーカーであるBNP(脳性ナトリウム利尿ぺプチド)や、血栓があると上昇するD-Dimerなどの凝固関係の項目も測定します。

植込み型心電計(ループレコーダー)

小型のチップを皮下に植込み約2~3年と長期間の心電図を記録することで、失神の原因を特定する検査です。