胃腸炎とは
胃腸炎とは、嘔気・嘔吐・腹痛・下痢といった消化器症状を伴う病気で、「お腹の風邪」と表現されることもあります。多くはウイルス性で治療をしなくても自然と良くなることがほとんどですが、重篤な疾患が隠れていることもありますので注意が必要です。とくに憩室炎や虫垂炎は鑑別が難しいことがあります。
胃腸炎の原因
多くはウイルス性ですが、感染経路、潜伏期間、流行時期など多様で、原因微生物が特定できない場合も多々あります。
季節ごとに流行しやすい原因菌を示します。
流行時期 | 病原体 | 原因 | 潜伏期間 |
---|---|---|---|
常時 | サポウイルス | カキなどの2枚貝 | 1,2日 |
常時 | ウェルシュ菌 | カレー、鍋など | 10時間 |
常時 | 黄色ブドウ球菌 | さまざま | 3時間以内 |
常時 | アデノウイルス | 糞口感染 | 2,3日 |
冬 | インフルエンザ | 接触感染や飛沫感染 | 2,3日 |
冬 | ノロウイルス | カキなどの2枚貝 | 1,2日 |
冬 | ロタウイルス | 糞口感染 | 1,2日 |
夏 | カンピロバクター | 食肉(特に鶏肉) | 1週間前後 |
夏 | 腸管出血性大腸菌 | さまざま | 1週間前後 |
夏 | サルモネラ菌 | 卵や鶏肉 | 8~48時間 |
夏 | 腸炎ビブリオ | 魚介類 | 1日以内 |
夏 | コレラ | 糞口感染 | 1~5日 |
食べ物が原因になることは多いのですが、実際に胃腸炎を起こすかどうかは人間側の体調や免疫状態にもよります。「みんなで食べたけど私一人だけお腹を下した」というケースはよく経験します。
胃腸炎の検査
①身体所見
お腹が硬く張っていないか、腸の蠕動運動に異常はないか、押して痛みはないか、などを確認します。押すと痛みでこわばったり、圧迫を解除した時にも痛む所見は腹膜に炎症が及んでいる可能性があり早急な対応が必要なケースがあります。
②腹部レントゲン
便秘や大腸ガス、腸閉塞のサインなどないかを確認します。また、消化管穿孔のサインである腸管外ガスがないかどうかなども確認します。
③血液検査
白血球やCRPといった炎症反応が上がっていないかを確認します。白血球と炎症反応がともに高値であれば細菌感染を疑います。虫垂炎、憩室炎が疑われる場合は抗生剤が必要となりますし、消化管穿孔や腹膜炎、膵炎等の場合は緊急対応が必要になります。肝機能、腎機能等も同時に確認して全身状態を把握します。
④CT検査
腹部レントゲンで腸管外ガスがあったり、炎症反応が極端に高値の場合は、より精密な診断が必要になります。CT(造影)をお勧めし総合病院へ紹介することもあります。
胃腸炎の治療
吐き気が強く水も食事も全く摂れない方は入院治療が必要になる可能性がありますので、救急車対応をお願いしております。クリニックでは即座に対応に当たれる医師・スタッフには限界があります。苦しい時間を少しでも早く良くするためにも救急病院への受診をご検討ください。
治療は、症状に対する対処療法が基本になります。下痢に対しては整腸剤の処方が中心となります。下痢止めは、原因である病原微生物や毒素を排泄できなくなるため極力避けます。
胃痛や嘔吐に対しては、胃酸の分泌を抑える薬や、腸の動きをゆっくり整える内服薬を処方します。
また当院では採血結果は当日に出るため、細菌性かウイルス性かをある程度判断可能です。細菌性が疑わしい場合は抗生剤を処方いたします。
症状が強い方は点滴加療をお勧めしております。脱水は全身状態を悪化させます。また嘔気や下痢があると、薬が十分に吸収されない可能性があります。特に嘔気が強いと薬が飲めないこともあります。そのため当院では積極的に点滴加療をご案内しております。
食事や注意点
嘔吐や下痢がある方では、消化の良い食べ物が望ましいです。
- おじや
- うどん
- リンゴのすりおろし
- ゼリー飲料
- スポーツドリンク
などを少しずつ摂りましょう。小さくて柔らかいもの、油分の少ないものが宜しいです。
下痢が嫌との理由から、水分や食事を摂らずに堪えようとする方が時々いらっしゃいますが、脱水は急性腎不全などの合併症も起こし全身状態はさらに悪くなります。少しずつでもスポーツ飲料などを摂るようにしましょう。
逆に、避けたい食べ物についても載せておきます。刺激の強いもの、辛い物、脂肪分が多いもの、冷たい物は避けた方が良いでしょう。
- カップラーメン
- きのこや海藻など食物繊維が多い食べ物
- 香辛料の多い食べ物(カレー、キムチ、ニンニクなど)
- チーズや揚げ物など脂肪分が多い食べ物
- 刺身などの生もの
- お菓子
- アイスクリーム
以下、注意点です。
- ウイルス性感染性胃腸炎では多くの場合、患者様との接触や汚染された食品を介した経口感染です。日頃から手洗いやうがいを習慣付けましょう。
- 同居している方で胃腸炎の方がいる場合には、排泄物の処理の際にはビニール手袋を使用し接触を避けましょう。汚染された可能性のあるものはよく消毒しましょう。
- 胃腸炎の感染患者が排便した後は、ウイルスはエアロゾルとなって数時間にわたりトイレ内に漂うと言われています。吸入して感染しないため、予めトイレに入る前にマスクをしましょう。
- 人は無意識に顔を触り、徐々に口や鼻周辺を触ってしまいがちです。汚染された手で顔を触るのはやめましょう。