心房細動とは
心臓は、心臓内で発生する電気信号によって規則正しい拍動を繰り返しています。心房細動は、心房が「細かく動き」、機能が低下してしまう不整脈の一種です。
心房細動は珍しい病気ではありません。日本における患者数は約130万人、潜在的な患者数は200万人以上と考えられています。高齢化とともに増加傾向です。
動悸、めまい、胸の不快感、息苦しさといった症状が出ることがありますが、一方で症状を感じない方も多くいます。
心房細動の原因
初期の心房細動の原因の多くは、左心房にある4本の肺静脈付近から発生する異常刺激です。この刺激が左心房内に伝わることで心房細動が起こります。
①加齢
電気信号を伝える心筋が劣化し、心房の異常興奮が起きやすくなります。年齢が高くなるほど心房細動を起こしやすいことが知られています。
②他の心臓疾患
心臓自体に負担がかかっている心筋症や、僧帽弁疾患(狭窄症or 閉鎖不全症)では、心房細動が発生しやすいとされています。
③他の疾患
甲状腺疾患や肺疾患(COPDなど)に心房細動を併発することがあります。
④生活習慣
アルコールや睡眠障害、ストレス(精神的、身体的)、糖尿病、肥満、脂質異常症などのメタボリックシンドロームも心房細動を引き起こしやすくなる要因とされています。
心房細動の諸問題
①症状
心房細動では心拍数が速くなり、また脈拍がバラバラになります。その結果、動悸や胸の違和感、圧迫感、息切れなどを感じます。中には無症状の方もいらっしゃいますが、よくお話を聞くと、「疲れやすくなった」や「運動しにくくなった」などの症状があります。
②脳梗塞
心房細動になると心房が「細かく動く」痙攣状態になります。その結果、心房内の血流が淀み、血栓が出来やすくなります。左心房には左心耳という袋状の構造があり、この部分に血栓ができやすくなります。
血栓が脳へ飛んでしまうと、脳梗塞を発症します。脳梗塞の発症リスクは、年齢や心不全、高血圧、糖尿病、脳梗塞の既往の有無などでおよその推定ができます。通常1年間に2〜8%の方に脳梗塞が発症します。
心臓でできた血栓が血流に乗って脳の血管を詰まらせて起こる心原性脳梗塞は、脳の広い範囲に影響が出やすいため、重い後遺症が残ってしまう可能性が高いと言われています。
心原性脳梗塞で入院した患者様のうち、約半数は亡くなったり、寝たきりや歩くのに介助が必要な状態になったというデータもあります。心原性脳梗塞を予防するためにも、早めに心房細動の治療を受けることが大切です。
また心房細動の患者様は、うつ病や認知症にもなりやすいと言われていますが、小さな血栓による脳障害が一因として考えられています。
③心不全
心室が血液をしっかり拍出するためには、心室が十分拡張し、血液を貯める時間が必要です。しかし、心房細動のような頻脈状態では、心臓は十分に拡張する時間がなくなり、有効な拍出ができなくなります。その結果、心不全となってしまいます。
心不全になると、息切れ、むくみ、倦怠感などの症状によって日常生活に支障が出てきます。
心不全が悪化してくると、心房細動の発作も頻繁になり、持続するようになります。そうなると心不全も悪化しやすくなる、という悪循環に陥ります。
心不全と診断されてから5年以内に50%の患者様が亡くなってしまうという報告もあります。心房細動と心不全の悪循環に陥る前に、早めに診断と治療を受けることが大切です。
心房細動の検査
①問診
医師による問診は非常に重要です。どんなときに、どのような症状が出るのか、どのくらい続くのか、初めての症状なのか複数回あるのか、他に高血圧や糖尿病、既存の心臓病がないかなどを確認します。背景にある原疾患の治療も大切になります。
②12誘導心電図検査
心臓は電気的な刺激で拍動していますが、心電図はその電気的な活動を波形として記録する検査です。ベッドに横たわり胸と手足に電極を付けて測定します。
しかし受診して心電図をとるときには消失していることもあり、通常の検査では異常のないこともあります。そのため心房細動などの不整脈が疑われる場合は、発作時の状態を調べるために、ホルター心電図検査を行います。
③ホルター心電図検査
電極を胸につけ、磁気カード程度の携帯型心電計とつなぎ、24時間心電図を記録する検査です。長時間心電図を記録して心房細動の発作が起きたときやその前後の状態を記録できる検査です。
④イベントレコーダー
小型の心電図計を携帯して、動悸等の症状が起きたときに胸に当てて心電図を記録する検査です。発作が稀な患者様に用います。
⑤植込み型心電計(ループレコーダー)
植込み型ループ心電計は、約2~3年と長期間の心電図を記録することで、失神の原因特定や、脳梗塞を発症の原因が心房細動によるものかを診断するのに非常に有効です。局所麻酔で行い10分程度で終わる処置です。
⑥心臓超音波検査(心エコー検査)
超音波を使って心臓の状態を探る検査です。超音波というのは、人の耳には聞こえない高い周波数の音波で、これを体に当て、体内の臓器や血液が流れる様子を映し出します。心臓超音波検査では、心臓の大きさ、心筋の動き、弁の機能、心内血栓などを評価します。
より詳細に検査する場合は、胃カメラのように探触子を飲み込んでもらい、食道の内部から心臓を評価する、経食道エコー検査を行います。
⑦血液検査
血液生化学検査では、甲状腺機能などの内分泌関係を含めたスクリーニングや凝固機能を調べます。糖尿病や脂質異常症、腎臓疾患などの評価にも血液検査は有用です。
また、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を調べることで、心不全のスクリーニングを行います。BNPは心臓を守るために心臓自体(心室)から分泌されるホルモンで、心臓への負担の程度を知ることができます。自覚症状が出る前から濃度が上がるので、心機能低下の早期発見に役立ちます。
⑧胸部レントゲン検査
心房細動を胸部レントゲン検査で診断することはできませんが、簡便で直ぐできる検査です。心臓の大きさや肺の血液がうっ滞していないかなど確認します。
心房細動の治療
心房細動の治療は、「脳梗塞の予防治療」と「脈拍の治療」に分けられます。
脳梗塞の予防治療
心臓の中に血栓ができて、心原性脳梗塞となるのを予防する治療です。以前はワルファリンという抗凝固薬が多く使用されていました。ワルファリンには、採血で治療域の調整が必要だったり、納豆や緑黄色野菜などのビタミンKを多く含む食べ物を避ける必要があるという問題があります。
現在は、そうした問題点を改良し、出血性合併症の少ない新しい抗凝固薬が使われていますが、ワルファリンと比較すると薬代が高いというデメリットもあります。
これらの抗凝固薬によって脳梗塞のリスクを年1%程度に減少させることができますが、一方で副作用として、およそ年間約1%程度で出血性合併症が起こることが知られています。
最近では血栓ができる左心耳を外科的あるいはカテーテルによって閉鎖する方法が開発されており、抗凝固薬の継続的使用が困難な患者様に使用されています。
脈の治療
レートコントロール
心房細動のままで、心拍数が速くなりすぎないようにします。心室に送られる信号が正常に近づけば、心室への負担が軽くなり、心不全のリスクが下がります。
リズムコントロール
心房細動を停止させ健常な脈に復帰させます。
薬物治療、電気的除細動、カテーテルアブレーション、外科的手術、があります。
①薬物治療(抗不整脈薬)
一定の効果はありますが、薬剤が効かない発作性心房細動も多いです。また長期に持続し慢性化した心房細動を完治させるのは困難です。心臓に関わる副作用もあります。
②電気的除細動
頻脈発作が持続している時に有効な治療方法の一つですが根治治療ではありません。アブレーションの前に洞調律を確認する際などにも検討されます。
③カテーテルアブレーション
数本のカテーテルを脚の付け根や首の付け根から心臓の内部に通し、そのカテーテルを使って心房細動の原因となっている異常な電気信号を停止させる治療法です。
主に発作性心房細動の治療に使用され、成功率は70~80%程度です。長期間持続している心房細動では成功率は下がります。
心房細動の原因となる異常な電気信号は、左心房に続く肺静脈付近から多く発生します。アブレーションでは、肺静脈周辺の心筋を焼灼または凍傷状態にして異常な電気信号が伝わらないようにします。この治療方法を「肺静脈隔離術」といいます。
④外科的手術
Maze手術
開胸手術です。心房の心筋に短冊様の迷路(メイズ)を作り電気信号が伝わらないようにします。また予防的に左心耳の切除も行い、脳梗塞の原因となる血栓ができないようにします。通常は、他の心臓の手術と一緒に行われることが多い手術です。
胸腔鏡下外科的左心耳閉鎖術(ウルフ-オオツカ法)
大きな傷を作ることなく、内視鏡を使って、心臓の外側から肺静脈隔離等の外科的アブレーションを行い、かつ予防的左心耳切除を行う治療法です。
抗凝固薬を飲んでいても脳梗塞を起こした方、出血合併症を起こした方、アブレーションで治療できなかった方、薬を飲みたくない方などが良い適応となります。1回の治療で良好なリズムコントロールが得られ、脳梗塞予防効果も高いことが示されています。
心房細動は珍しい病気ではありません。無症状や症状が軽い場合もありますが、重症な脳梗塞や心不全を引き起こします。脈の不整を感じたり、健診で指摘された際には是非受診して医師に相談してください。