心室頻拍・心室細動は、心臓の働きの中心である心室で異常な電気信号が生じ、心臓がけいれん状態になってしまう不整脈です。けいれん状態になった心臓は収縮できなくなり、いずれ止まってしまいます。心臓突然死を起こす危険な不整脈です。
日本では、年間で推定約6万人に心臓突然死が起きており、日本における突然死の約60%に及びます。その原因の殆どが心室頻拍・心室細動と言われています。
心臓突然死は、突然、予兆なく起きます。予防には心室頻拍や心室細動の原因となる心臓病(心筋梗塞などの虚血性心疾患、心筋症や不整脈症候群など)の診断と治療が重要です。
一方、原因が特定できない「特発性」と呼ばれる心室頻拍や心室細動もあります。健診や診療でも心臓に明らかな異常を認めないため、突然死の予防は困難です。
心室頻拍
心室頻拍は、心室期外収縮が連続で3拍以上にわたり、心拍数が120/分以上となる状態です。心室頻拍は単形性と多形性に、また非持続性と持続性に分類されます。
- 単形性:単一のリエントリー回路に起因し、同じ形態のQRS波が規則的に生じる。
- 多形性:複数の起源または伝導路に起因し、QRS波は不規則に形態が変化する。
- 非持続性:持続時間30秒未満。
- 持続性:30秒以上継続するか、血行動態の破綻により30秒未満で停止する。
心室細動
心室細動は、基線が超高速で動揺し、単に波形が小さく不規則に波打っているように見える状態です。心臓は細かく不規則に震え、拍出できない状態となります。脳や体に必要な血液を供給できず心停止状態となり、この状態が続くと死に至ります。
心室頻拍・心室細動の原因
心臓病(心筋梗塞や心筋症など)によって心筋がダメージを受け発症する場合が多いですが、原因が明らかにできない場合もあります。心臓病がある場合は、突然死の予防は非常に重要になります。
心室頻拍・心室細動の症状
心室頻拍・心室細動がおこると意識消失し心肺停止状態となります。失神のように数秒以内に麻痺などなく改善する場合や、一部の心室頻拍では動悸やふらつき程度の症状で済むこともあります。
心室頻拍・心室細動の検査と診断
①問診
失神やふらつきは、どんな時に起きたのか、初めての症状なのか以前もあったのか、状況を覚えているか、麻痺はなかったか、他に持病はないかなどを尋ね、状況を把握します。
②心電図検査
心電図は心臓の電気的な活動を波形として記録する検査です。背景に心筋梗塞などの虚血性心疾患や心肥大がないか、致死性不整脈を起こしうる所見がないかを確認します。
しかし受診した時には症状も特になく、通常の検査では診断できないこともあります。その場合は、長時間の記録が可能なホルター心電図検査を行います。
③ホルター心電図
日中に活動している時だけでなく、睡眠中にも心室頻拍や心室細動が出ていないかを確認します。また期外収縮から心室頻拍を生じることもあるので、期外収縮の頻度や形状も確認します。
④心臓超音波検査(心エコー検査)
心臓超音波検査では、心臓の大きさ、心筋の動き、弁の機能などを評価します。冠動脈が詰まって狭く虚血がある場合には、左心室の壁運動に異常がみられることがあります。
⑤血液検査
脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を調べることで、心不全のスクリーニングを行います。BNPは心臓を守るために心臓自体(心室)から分泌されるホルモンで、心臓への負担の程度を知ることができます。
心筋梗塞を起こした時に上昇するような、心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP)、心筋トロポニン、クレアチンフォスフォキナーゼ(CK)とその分画であるCK-MBなどを調べます。
ナトリウムやカリウムなどの電解質バランスの破綻によって不整脈が起こることもあるため、これらも同時に調べます。
また、甲状腺機能などの内分泌関係、糖尿病や脂質異常症、腎臓疾患など生活習慣病の評価にも血液検査は有用です。
⑥胸部レントゲン検査
心臓の大きさや肺の血液がうっ滞していないかなど確認します。
特に狭心症や心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋症などの心臓病が隠れている場合があります。冠動脈CT検査、心臓MRI検査、心臓カテーテル検査などの精密検査を検討していきます。
⑦その他
特に狭心症や心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋症などの心臓病が隠れている場合があります。冠動脈CT検査、心臓MRI検査、心臓カテーテル検査などの精密検査を検討していきます。
心室頻拍・心室細動の治療
心室頻拍・心室細動により心停止を来した場合は迅速な心肺蘇生処置が必要です。救急隊の到着前から、周囲の方々やご家庭で協力して行う必要があります。呼びかけて応答がない、呼吸をしていない等があれば、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を迷わず行ってください。また、AED(自動体外式除細動器)の使用が非常に有効です。
心室頻拍や心室細動は、一旦治まったとしても再発する可能性があるため、ICD(植え込み型除細動器)を検討する必要があります。これはAEDを体内に植え込むようなもので、致死性不整脈が生じた際に、自動で電気ショックを含む治療を迅速に行うことができます。
ICDと並行し、致死性不整脈の発生を予防することも重要です。薬による治療やアブレーションも検討し、可能な限り再発を防ぐ必要があります。