COPDとは
慢性閉塞性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)とは、従来、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称です。タバコの煙などの有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患であり、喫煙習慣のある中高年に発症する生活習慣病といえます。
タバコの煙によって気管支に炎症がおきて狭くなり、空気の流れが悪くなります。また気管支が枝分かれした奥にある肺胞が破壊されて肺気腫になると、換気がうまくできなくなります。こういった状態は治療をしても元に戻ることはありません。
COPDの症状
初期は無症状ですが徐々に進行して、咳、喘鳴、労作時呼吸苦などが出てきます。
- タバコを吸っているし、多少の咳や痰は出る
- 少し息苦しいのはタバコじゃなくて年のせいだ
- タバコを吸っていると落ち着くしやめたくない
などと思っている方は多いと思います。何となく体に良くないことはわかりつつも吸っていると思います。しかし、症状が進行するとどのような状態になるかご存知でしょうか?
- 会話するだけで息が上がってしまい、休み休みじゃないと話せない
- 咳が出続けて眠れない
- ベッドから起き上がるだけで苦しい
など、安静でも呼吸困難を感じるようになり日常生活に支障を来します。
そして進行とともに気管支炎や肺炎を合併しやすくなり、咳、痰や発熱、呼吸困難の悪化など、急性増悪を起こして入院を繰り返すことになります。
さらに最近では、COPDによって全身にさまざまな障害が起こることが知られるようになりました。
肺高血圧や心不全
肺胞が破壊されたり血管が攣縮することで肺血管床が減少し、肺血管内の抵抗が増えて肺高血圧に至ります。その状態が続くことで心臓にも負担となり心不全をきたします(右心不全)
消化性潰瘍や逆流性食道炎
COPDでは、低酸素による影響で胃粘膜障害が起こりやすく、消化性潰瘍や逆流性食道炎などの合併が多いことが知られています。逆に消化管症状があることで食欲が落ち栄養不足から筋力低下になり、COPDは悪化していきます。
栄養障害
鎖骨がくっきり凹んだ痩せた男性、というのが想像しやすいでしょう。COPDでは呼吸不全によって全身の筋肉を使って呼吸を補う必要があり、健常な人に比べてエネルギー消費が増加するため、栄養不足になりがちです。栄養障害になると、筋力低下や運動能力低下にもつながりますので、毎日の食事で栄養をきちんと摂るように心掛けることはとても大切です。
骨粗しょう症
COPDでは骨密度が低下し骨粗しょう症を合併しやすいことが知られています。原因は分かっていない部分もあるのですが、喫煙の影響でエストロゲンが抑制されたり、カルシウムやビタミンDなどの栄養不足が一因と考えられています。骨折は寝たきりになってしまう可能性もあり、その後の人生が台無しになってしまいます。
COPDの検査と診断
- 問診では、喫煙歴を含めてお聞きします。
- レントゲンでは、咳や痰、呼吸苦を起こすほかの疾患が内科を確認します。肺癌や間質性肺炎、心不全等でも同じような症状があらわれることがあり、鑑別が必要です。
- 必要に応じてCT(HRCT)による評価も行います。気道病変や気腫性病変の評価に有用です。
- 肺機能検査は特に重要で、診断や治療方針の決定、病気の進行度合いを評価します。
- 息がどれくらい吐けてどれ位吸えるか、の総量を確認(努力肺活量:FVC)
- 息が1秒間にどれ位吐けるかを確認(1秒量:FEV1.0)
そしてほかに肺の病気がない場合にCOPDと診断されます。 - 病気の進行度は、年齢と身長から推定される予測値と比較した、%FEV1.0を用いて評価します。また「肺年齢」も分かるので、同年代との比較で、自分の呼吸機能がどの程度なのかを知ることができます。 肺年齢のチェックはCOPDの早期発見・早期治療につながりますので、40歳以上で喫煙歴のある方は、症状がなくても定期的な検査をお勧めします。
病期 特徴 Ⅰ期 軽度の気流閉塞 %FEVI≥80% Ⅱ期 中等度の気流閉塞 50%≤%FEVI<80% Ⅲ期 高度の気流閉塞 30%≤%FEVI<50% Ⅳ期 きわめて高度の気流閉塞 %FEVI<30% - 運動耐容能の評価は、個々の病態把握やリハビリテーションプログラム、薬物治療の決定と効果判定に有用です。6分間歩行テストや心肺運動負荷試験(CPX)があります。
- COPDと睡眠時無呼吸症候群の合併は心不全のリスクとなる為、睡眠検査も大切です。
COPDの治療
- 禁煙は絶対に行うべき治療です。タバコが主因の病気なので、まずは原因を断つ必要があります。禁煙外来では、NRT(ニコチンパッチ、ニコチンガム)や内服薬(バレニクリン)がありますが、内服薬(バレニクリン)の方がやや成功率が良いと言われています。
- 薬物療法の中心は吸入療法です。LAMAやLABAといった気管支拡張薬を単独あるいは併用します。ICSは喘息の合併があれば考慮します。
- ワクチン接種や栄養療法、運動療法も早期から行いたい治療です。
- 呼吸リハビリテーション
呼吸リハビリテーションは、COPDの呼吸困難の軽減、運動耐容能の改善、QOLの改善に有効で、薬物治療以外の標準的治療の中心と言えます。薬物療法や酸素療法に加えて呼吸リハビリテーションを行うと効果的です。 - 栄養管理
重症COPDの約40%に体重減少が見られます。とくに筋肉量減少と活動性低下で起こるサルコペニアが問題となります。
運動療法と栄養管理を併せて行うことが重要になります。
基礎代謝の1.7倍、体重当たり1.2~1.5gの高蛋白食が基本となります。
- 筋蛋白合成に必要なBCCAを多く含む食品
- 呼吸筋維持に必要なリン、カリウム、カルシウム、マグネシウム
- 酸素療法と換気補助療法
薬物治療や呼吸リハビリテーション、栄養管理などを十分行っても増悪を繰り返したり、心不全や睡眠障害の合併がある場合には、在宅酸素療法や換気補助療法を検討します。重症低酸素血症(PaO2≦55 Torr、SpO2≦88%)の方が適応となります。