肝機能障害とは
肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、病気になっても症状が現れにくい臓器です。そのため、何か異常があってもご自身で気づくケースは少なく、多くの場合は健康診断等で異常を指摘されることで発見されます。
健康診断等で異常を指摘された方はもちろん、そうでない方も食べ過ぎ・飲み過ぎの自覚がある方は一度ご相談いただき、肝臓の状態を確認されることをおすすめします。
また腹痛や食欲不振、黄疸などの症状がある方はお早めにご相談ください。
健康診断で引っかかったら
健康診断で肝機能の異常を指摘され、要精密検査の指摘をされる方も多いと思います。まずは内科や消化器内科に受診しましょう。肝臓の精密検査として血液検査や腹部超音波検査を行い、以下のような病態を調べます。
- ウイルス性肝炎の検査
- アルコール摂取量、飲んでいる薬やサプリメントの確認
- 脂肪肝の有無
- 自己免疫性肝炎
- 原発性胆汁性胆管炎有無
- 肝臓がんが無いか
- 胆道系の異常(胆石など)
肝機能障害の検査
①ウイルス性肝炎の検査
まず、B型肝炎やC型肝炎が無いかどうかを調べることが大切です。日本における慢性肝疾患の約7割がウイルス性肝疾患ですから、肝機能に異常がみられたらまず肝炎ウイルスの有無を確認しておく必要があります。
B型肝炎ウイルス(HBV)
性交渉、ピアスの穴開けや入れ墨などで器具を適切に消毒していない場合、出産時の垂直感染で血液を介する場合、などで感染するケースがあります。
近年は性交渉による感染が増えています。成人になってからHBVに初感染した場合、約80%の方は肝炎にならず自然に治癒します。残りの約20%の方は急性肝炎を発症しますが、1~2%の方で劇症肝炎となり、時に死亡するケースもあります。食欲不振や黄疸があれば早めにご相談ください。
また、最近では肝炎が遷延して慢性化しやすいタイプのHBVも増えてきています。
HBV未感染の方は、B型肝炎ワクチンの接種により感染を予防することができます。
C型肝炎ウイルス(HCV)
HCVは血液や体液を介して感染します。最近ではピアスの穴あけや医療現場での針刺し事故などによる感染が見られます。HCVはB型肝炎ウイルスより感染力が弱いため、性交渉や体液で感染することは比較的稀です。B型肝炎に多い垂直感染(母子感染)もHCVでは5~10%程度とされています。
何らかの原因で感染した場合、ウイルスは排除されず持続感染になります。ゆっくりであるものの、肝臓の繊維化とともに慢性肝炎から肝硬変を起こし、肝臓がんへ進展していきます。
②アルコール摂取量、飲んでいる薬やサプリメントの確認
飲酒の有無やアルコールの量を伺います。適度な飲酒量というのはアルコール換算で約20g程度です。アルコールの日常的な摂取では、アルコール性脂肪肝をおこし、重症化すると肝炎や肝硬変にいたります。男性に多いイメージがありますが、同じ飲酒量を続けた場合、女性の方がアルコール性肝障害が起こりやすいとされています。
お酒の種類 | 目安量 |
---|---|
ビール | 500ml |
日本酒 | 1合(180ml) |
焼酎(7%) | 1缶(350ml) |
ワイン | グラス2杯(200ml) |
ウイスキー | ダブル1杯(60ml) |
また、肝機能障害の原因で多いのは薬剤による肝障害です。風邪薬やサプリメントでも肝機能障害が起こることがあります。
③脂肪肝の有無を調べる
肝臓に脂肪が溜まってフォアグラのような状態になる病気です。脂肪肝は長期間無症状ですが、気が付かないうちに脂肪肝から慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんへ進行する場合があり注意が必要です。
- アルコール性:アルコール摂取量≧20gが目安になります。
- 非アルコール性(NAFLD):肥満、糖尿病、脂質異常症、栄養障害、薬剤性など
⇒単純性脂肪肝 or 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
当院では脂肪肝を診断する検査として、腹部超音波検査を行っています。
- 生活習慣の改善
- 薬物治療(ビタミンE、ウルソデオキシコール酸、SGLT2阻害薬、など)
④自己免疫性肝炎について
自己免疫性肝炎とは、本来はウイルスや細菌などの異物に対して体を守るために働く免疫機能が、自分の肝細胞を異物と勘違いして攻撃してしまう病気です。
中年以降の女性に多くみられ、他の自己免疫疾患(慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群、関節リウマチ)が合併しやすいことが知られています。
血液検査で抗核抗体やIgGの値を調べます。肝生検が必要になる場合もあります。
自己免疫性肝炎は難病に指定されており、重症の場合は医療費助成制度が受けられる可能性があります。
⑤原発性胆汁性胆管炎について
自己免疫性肝炎と同様に、自分の免疫細胞が肝内の細い胆管を破壊してしまう病気で、難病指定されています。胆管が破壊されると消化酵素である胆汁はうっ滞して肝臓に炎症がおき、最終的には肝硬変になることがあります。
飲酒や服用薬がないにもかかわらずγGTPが高値の場合には、この病気を考え抗ミトコンドリア抗体を確認します。最終的には肝生検が必要になります。
⑥肝臓がんがないか
肝臓がんなどの腫瘍がないかを調べます。当院では腹部超音波検査を行っています。更なる精査が必要な場合には、CT検査など紹介いたします。
⑦胆道系の異常(胆石など)
胆のうや胆管に石ができると、胆汁の流れが悪くなり、肝機能異常の原因となる場合があります。当院では腹部超音波検査で胆石の有無を調べることができます。追加で精査が必要な場合には、CTやMRI検査など紹介いたします。